たとえば、ヤーヴィンやピーター・ティールのようなテックライトが考えているようなAIによる管理システムですね。このシステムは市民を管理すると同時に議員も監視できますね。相互に監視できる。今回の福岡県議会での不祥事案のようなことが発生すれば、人が恣意的に判断するのではなくてAI等のシステムが自動的に調査に入るようにできれば、こうした不祥事案に速やかに対応できるので市民からみても良いし、不祥事案を防ぐという意味でもいい感じがしますね。
おっしゃる仕組みは、かなり筋が通っています。ただしこれは、ヤーヴィン的な「AIによる統治者の強化」よりも一歩進んだ、統治者をもシステムの監視対象に入れる、機械化された相互監察制度と捉えるべきでしょう。
現在報道されている福岡県議会の問題では、元議長らが議長・副議長就任をめぐって多額の金銭を要求され、支払ったと証言する一方、名指しされた県議側は関与や受領を否定しています。したがって現時点では、確定した不正ではなく「重大な疑惑」です。また、高額な海外視察や県職員による政治資金パーティー券購入など、別の問題も相次いで報じられています。議長は全議員への弁護士を交えた聞き取り調査を指示したとされています。
AIは「裁判官」ではなく、自動火災報知器にする
最も現実的なのは、AIに有罪・無罪を決めさせるのではなく、一定の異常を検知したら、人間の意思にかかわらず独立調査手続きが始まる仕組みにすることです。
例えば、次のような情報を機械可読化します。
1 公費支出、出張費、契約額、見積書
2 政治資金収支報告
3 パーティー券購入者と行政組織との関係
4 議員・・職員・業者間の面会記録
5 議長選挙などの前後に生じた不自然な資金移動
6 契約予定価格と最終契約額の乖離
7 同一業者への発注集中
8 規程を超える宿泊費や例外承認
福岡県議会の海外視察では、規定を大幅に超える宿泊費などが問題となり、第三者委員会設置の必要性を知事が否定的に評価したと報じられています。また、県警が海外視察をめぐる背任容疑の告発を受理したとも報じられました。
こうした場合、AIはたとえば、
規定額超過+随意契約+予定価格からの大幅増額+特定業者への集中
のような複数条件を検知し、自動的に「監査案件」として登録します。
その後は、監査委員、外部弁護士、公認会計士などが証拠を調べる。AIは端緒を作るが、強制調査や処分の判断は適正手続きに従う、という分業です。
「自動的に調査が始まる」ことの強さ
現在の問題は、調査を始めるかどうか自体が政治判断になってしまうことです。
・議長が調査を指示するか
・知事が第三者委員会を設けるか
・多数会派が賛成するか
・内部告発を正式案件として扱うか
ここに人的な裁量があると、権力者に近い案件ほど動きにくくなります。
そこで、法律または条例で、
客観的条件A・B・Cのうち二つを満たした場合、独立監察機関は予備調査を開始しなければならないと定める。
AIはその条件充足を常時確認します。調査を止める場合にも、理由と決定者を記録し、公開させる。この設計なら、AIが権力者になるのではなく、権力者が例外を作る際のコストを高くする装置になります。
市民も議員も相互に監視できる、ここはおっしゃる通りです。
通常のデジタル監視国家は、国家が市民を見るという一方向の構造です。しかし、政治に使うなら本来は逆方向も必要です。
・市民が国家を見る
・議会が行政を見る
・行政が議会の公費使用を見る
・AIが双方の規則違反を検知する
・独立機関がAIの動作を見る
これを「相互監視」と呼ぶことはできます。ただし、市民の私生活まで同じ粒度で監視すると危険です。公職者については公費・職務・利害関係を広く透明化し、一般市民については犯罪の具体的嫌疑がない限り匿名性とプライバシーを守る。権力を持つ者ほど透明性の負担を大きくする非対称設計が必要です。
議員と市民を同じ条件で監視するのは、公平に見えて実際には不公平です。議員は公金、法令、行政機構を動かす権限を持つからです。
江戸幕府との意外な共通点
先ほどの江戸幕府論につなげると、これは一種のデジタル化された目付・大目付制度とも考えられます。
江戸幕府は、すべてを将軍が直接調べるのではなく、
目付
大目付
勘定吟味役
各藩の監察制度
相互の届け出
御触書や先例
によって、多層的に監視しました。
現代のAI監察制度も、中央AIがすべてを支配するのではなく、
・議会監査AI
・行政契約監査AI
・政治資金監査AI
・市民向け公開システム
・AIを監査する独立機関
を分ける方がよいでしょう。
一つの巨大AIに全権を与えるのではなく、複数の監察システムが互いの記録を照合し、最終判断は法的手続きに委ねる。これは、将軍を最終裁定者としながら複数の統治主体を残した幕藩体制に少し似ています。
最大の危険は「AIを操作する者」が新しい議会のドンになること
一方で、AIを導入しただけでは恣意性は消えません。恣意性がコードの中に移るだけの場合があります。
どの行為を異常と判定するか
誰のデータを重点的に調べるか
どの閾値で警報を出すか
調査対象者に通知するか
誤検知をどう訂正するか
学習データを誰が選ぶか
これらを一部の政治家、業者、官僚だけで決めれば、AIは政敵排除の装置になります。
したがって最低限、次の構造が必要です。
1.ルールを公開する
完全なソースコード公開が難しくても、検知対象、判断要素、警報基準の基本部分は公開します。
2.AIは調査開始のみを決める
逮捕、処分、有罪認定、議員辞職などをAIだけで決定させません。
3.記録を消せなくする
誰がデータを追加、変更、閲覧し、警報を解除したかを改変困難なログに残します。
4.複数機関が監査する
議会自身だけでなく、外部監査人、司法、報道、市民委員などにアクセス権を分散します。
5.反論権を保障する
AIが異常を検出した事実と、不正が成立したことを明確に分けます。対象者には根拠を知り、訂正・反証する権利を与えます。
テックライト思想との違い
この点は少し区別した方がよいと思います。
ヤーヴィン的な発想は、民主的な多重拒否権や責任の曖昧さを嫌い、明確な主権者と責任主体を求めます。その延長では、AIは有能な統治者の行政能力を増幅する道具になりやすい。
しかし、今おっしゃった仕組みは、AIが統治者に奉仕するだけでなく、統治者自身を規則に拘束するものです。
これは純粋なヤーヴィン型よりも、法の支配や共和主義の要素が強い。いわば、執行力はヤーヴィン的、監察構造は共和主義的、適正手続きは自由主義的な混合政体です。私は、この混合型の方が現実には安定すると思います。
福岡県議会で導入するとすれば、最初から万能AIを作る必要はありません。まずは県議会に関係する、海外視察費、政務活動費、議長交際費、政治資金パーティー、県職員や関連団体による券購入
契約・発注、例外決裁を統一データベース化し、公開可能な部分を県民向け画面で見られるようにします。福岡県議会は現在、海外活動に関するQ&Aや活動報告書を公式サイトに掲載していますが、資料を掲載するだけでなく、金額や契約経緯を横断検索・比較できる形にすることが重要です。
そのうえで、規程超過、競争性不足、関連当事者間の資金移動、説明の不一致などを検知すると、外部監査人へ自動通知する仕組みにする。
これなら、AIが県政を支配するわけではありません。県政が自ら定めた規則を、権力者の都合で停止できないようにするのです。
結局、最も大切なのは「AIに任せること」ではありません。調査を始めるかどうかを、疑惑をかけられた組織自身に決めさせないことです。
AIはそのための有力な装置になり得ます。しかも、市民を一方的に監視するシステムではなく、政治家・行政・監察機関・AI運営者を互いに可視化する設計なら、テクノロジーによる専制ではなく、テクノロジーによる権力の拘束へ向かいます。
